まさこちゃんのウチはとっても素敵なおうちだった。
ちっちゃなマカロニに彩色して戸棚に並べてかざってあったり、形や色の揃ったコーヒー茶碗たちが、愛らしく、美しく並んでいた。
夕食はてづくりの魚料理、おやつは手焼きマドレーヌやババロア。
たまには遊びにおいで、と誘われてお泊まりした朝の朝食は手作りのバターたっぷりのふっくらオムレツと豆から挽いてドリップしたコーヒーだった。
奥様のお手本だな、家庭内はこうあるべきだなと思った。
結婚して子どもが産まれ、産休を取った後、フルタイムで働いていた。
子どもは保育園に行くとき、切ない目で声で、お仕事いかないでとうったえる。
罪悪感。
やっぱり妻として母として家庭で家族を支えなきゃ、と思い立ち家事を主にしてパート職に切り替えた。
さつまいもの根っこをみずに浸してグリーンの葉っぱを楽しめるようにした。
昼食時に仕事から帰る夫のために昼食をつくった。
幼稚園に通う子どもを送りバス停まで行きママたちのおしゃべりに加わった。
町内の婦人会の会合に参加した。
なんだか、私が私でなくなっていくような感覚。
なにもない昼間は、ただこんこんと眠っていた。
やがて気持ちがふさぎ、最低限の買い物や子どもの送り迎え以外、外出が億劫になった。
心療内科にいこうかな。
夫に向けつぶやいた。
テレビに見入る夫の耳には届いたようだったけれど心には届かなかったようだ。
私の心も動かなかった。
そうだ、そうか。
ここから出ればいい。
ある日、なぜだか急にそう思った。
私は私の人生を生きる。
今思えば、そんな思いがシンプルに強く大きく湧いてきて、その思いが行動へと駆り立てたのだと思う。
赤帽さんを呼び、最小限の荷物を積んで、子どもをつれて、わたしは家を出た。
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