やるせなさと冷静のバランス
イギリスの現代芸術家トレイシー・エミン(Tracey Emin)の展示を見に、ロンドンのWhiteCubeギャラリーに行ってきた。
トレイシー・エミンは、1990年代から自身の私生活の中の愛やセクシュアリティに関する作品を絵画やインスタレーション、テキスタイルを使って発表してきた。これまでは特にファンではなかったけれど、今回の展示は力強くて少し力をもらったので日本の女性みんなに見てほしいと思う。
展示会のタイトルは「I followed you to the end(終わりまであなたを追いかけた)」。そのタイトルのついた絵画には、血で描かれたようなタッチで、こんなメッセージが書かれている。
‘You made me like this. All of you – you – you men that I so insanely loved so much. You are the ones that made me feel so alone. All of you – each of you in your individual way.
I – I – I – was at fault to keep loving you. Like a fool I followed love to the end. Like the sad haunted soul that I am, I followed you to the end’.
あなたたちが私をこんなふうにした。全てのあなた - あなた - あなたたち 私があまりにも狂おしく愛した男性全員。あなたたちだ、私にこんなにも孤独を感じさせたのは。あなたたち全員 - 各々がそれぞれの方法で。
私 - 私 - 私 - があなたたちを愛し続けたことは間違いだった。私は愚かにも、終わりまで愛を追いかけた。哀しくも取り憑かれた魂である私は、終わりまであなたを追いかけたのだ。
絵画は死んだような女性のヌードやベッドのイメージが多い。女性器から血が流れていたり、ベッドで女性が誰かから背後から抱きしめられていたりする。「I do not want to have sex because my body feels DEAD (体が死んだみたいな感じになるからセックスしたくない)」という言葉だけが書きなぐられた作品もあった。どれも血が滴ったようなタッチで、おどろおどろしい雰囲気だが、赤、紺、モノトーンのすっきりした色使いで、洗練されて繊細で美しい。
部屋の中央には、巨大な重そうなブロンズの、泥の塊みたいな女性の下半身が這いつくばった格好の彫刻作品があった。これが「体が死んだみたいな感じ」なのだろう。
どの作品も、女性器、女性の裸体、性、痛み、苦悩、やるせなさ、哀しさ、孤独、のようなものが「これでもか!!」というほど堂々と表現されていたのだが、どこか冷静で、かっこよく、美しかった。演歌みたいに哀れになっても良さそうなのに、そうではない。やるせなさと冷静さのバランスがかっこよかった。彼女(女)自身が行動を選ぶ主体で、間違えた当人だという自覚を感じるからだろうか。
何もかも全て認識しよう、自分を見よう、明るみに出そうとする態度は主体性を取り戻すのにきっと役立つ。
私は「男vs女」の対立が目立つ表現はなんとなく避けがちだが、それでもこの展示は良かった。トレイシー・エミンの堂々としたやるせなさは、同じくやるせない私をひとまず許し、冷静さは私を落ち着かせる。
文章中または以下のリンクから素敵な絵画と彫刻の画像が見られる。
Tracey Emin
I followed you to the end
https://www.whitecube.com/gallery-exhibitions/tracey-emin-bermondsey-2024
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