「『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』を読む」の続きで、第二弾を綴ってみます。 (2025.04.09 ブログ)
さて、前回は「ジェンダー不平等は、逃れられない生物学に由来するというよりも、他者を支配しようとする権力者の物語があった」と結びました。とはいえ、初期の国家形成時の事情だけで、その後、何世紀も家父長制が続くわけではないでしょう。そこには、「家父長制を存続させるための、絶え間ない努力があった」と、サイニは言います。つまり、権力者たちは、社会規範、法律、条例などを張り巡らせ、時には脅威を使い、じわじわと社会に家父長制を根付かせたのです。 その方法のひとつは、「女性は男性よりも劣っている」と人々に信じ込ませることでした。そこで、社会に名誉や忠誠心、そして羞恥心を利用したジェンダー規範を浸透させ、女性の「劣等性」を刷り込んだのです。
第5章の「制限 」には、女性の社会への参加や、日々の選択、行動が制限された具体的な手法が記述されています。 例えば、古代ギリシャ以降の少女たちに課せられた性的純潔と貞操に関するジェンダー規範がそうです。また、少女たちは、10歳も15歳も年上の男性と結婚させられました。このことが、「男性は理性的で論理的である」という現代も残る固定観念を作ったのです。若い女性と年上の男性の結婚では、男女の人生経験に大きな差が生じるのは当然のこと。女性の振る舞いが幼なく、感情的で愚かに見えるのは、年齢差があるからなのです。「女性は論理的でない」という見え方は、女性の社会参加や進路の選択にも影響を与えてきました。現代でもリーダー的な役割や賃金、ITやスポーツへの参加などに男女格差があることは、統計からも明らかです。
6章の「疎外」は、家父長制から生まれ、家父長制によって強化されてきた最も暗い問題ーー家庭内暴力、レイプ、強制結婚、花嫁誘拐、監禁、売春、性的束縛、奴隷制、無報酬・無認可の家事労働、女性器切除などーーに焦点を当てます。サイニは、女性に対する暴力は、家父長制、つまり男女間の力の不均衡が原因であると同時に結果でもあるといいます。
家父長制や父系制では、若い女性が結婚と同時に実家を離れ、夫となる男性の両親のもとに身を寄せることが求められてきました。女性の運命は、義理の両親と夫という他人に左右されることになったのです。男性が女性に対して支配的な立場に立ち、女性の身体や自律性、他者との接触をも管理する状況は、こうして作られるのです。家父長制が、女性へのパートナーからの暴力のリスクと強い相関関係があるとは、国連の統計によっても裏付けられています。一方、母系社会、母系地域社会では、男性は女性の家族と同居します。ここでは、女性は家族から支援を受けることができます。
6章では、もうひとつ大事なこととして、家父長制の維持における女性の共犯性も指摘されています。夫の母親が一族の名誉を維持するために義理の娘である妻の殺害を画策する、誘拐された少女たちを誘拐犯の妻として留める、などは、その一例です。息子と結婚した義理の娘をもった母が力を持つという、このことは、年齢(女性は年齢とともに力を増す)と地位(息子を産む、義理の母になる)などの力と、ジェンダーとの交差性を浮き彫りにします。女性は、家父長制の枠組みの中でさまざまなパワー・ダイナミクスに巻き込まれ、実際にパワーをもって家父長制を維持する行動に出ることもあるのです。
サイニは、女性は決して「女性」という均質な集団ではなく、それぞれが目的を持った個人なのだと結ぶのですが、読者のみなさんはどう見るでしょうか。
読書会で一緒に話をしませんか。 ご参加をお待ちしています!
0コメント