母の預金通帳

後期高齢者の母が、8月の酷暑にやられ、数週間の入院後、医療的には回復し、帰宅した。物忘れは進んでしまったが、リハビリも頑張り自力でトイレに行けるようになった。

お風呂も入れている。ただ、手すりが必要になった。これは介護保険のお陰で、一割の負担でレンタルできるのは、ありがたい。

ある日ケアマネさんからの紹介で福祉用具の業者の方がみえた。

引き落としの手続きの為、妻とほぼ同じ年齢の父が、母の預金通帳を出してきた。と、母は母の通帳から費用を引き落とすことを承諾したのだろうか。

娘としては、今まで支えてくれた自分の妻、のために父が出してほしいと思った。父の名誉のために言うと、共働きだったので、一通りの家事はこなせるし、優しい父であるが。今は作れなくなった母に食事を作っている。

契約や、手続きが終わり、業者が帰ったあと、

父が、『お母さんの預金、大して入ってないな』と、どこか勝ち誇ったようにいう。
私はひどくかなしく、苦しくなった。

母は、立ち仕事を70代まで続け、高度経済成長期で家庭をかえりみない父に代わって『無償で』、家事や、育児をこなし、同居の義父母を、入院するまで、何十年も面倒をみた。

それらに関わる膨大な時間を、仕事に当てることが出来たなら、きっと、母の預金通帳の金額はもっと増えていたろう。

無償で母が頑張った時間、父は会社にいて、稼ぐことが出来たのだ。
父はわかっているのか?

女性にとって、家事や育児に費やす時間は無償で当たり前、それに対してせめて感謝の気持ちとして、形として何かが欲しいと、考えてしまうのは、いけないことだろうか。

母の、無償の愛情に感謝してもしきれない。

介護していても、すぐにカッカしてしまう未熟な娘で、涙が出る。


NPO法人YouToo

生きづらさを抱える女性たちの思いに「You Too」と寄り添う場です。 もやもやする気持ちを言葉にし、生きづらさの背景を考え、学び、生きやすい社会を作るために連帯して声をあげていきます。「わたし」を主語にして話すことで、あなたも、社会も、元気になる方法を探せるはず。 NPO法人YouTooには、あなたと同じ思いを持ったわたしたちがいます。